糖尿病の合併症は、大きくは大血管症、細小血管症に分類されます。また、糖尿病の合併症は全身に出現します(図1)。 糖尿病患者さんでは動脈硬化が進みやすいことから、虚血性心疾患、脳血管障害、下肢閉塞性動脈硬化症等の大血管障害のリスクが増大します(図2)。 糖尿病患者さんが心筋梗塞をおこす危険度は通常の3倍以上といわれており、欧米では糖尿病患者さんの40−50%が心筋梗塞で亡くなっています(図3)。 また、糖尿病に加えて、高コレステロール血症、高血圧などを併発すると、相乗的にリスクは高まります(図4)。そのため、LDLコレステロール、血圧の管理も同時に行うことが、予防のためには非常に重要です。 また、治療薬の選択も非常に重要で、最近の研究では、メトホルミン塩酸塩(製剤名:メルビン錠)やアカルボース(製剤名;グルコバイ錠)などに、心筋梗塞の予防効果があることがわかっています。(治療薬についてはこちらをご覧ください。) 糖尿病患者さんでは、脳梗塞の発症リスクが通常の2−4倍高まります。アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化により血栓が発生して血管が詰まる脳梗塞)に加え、高血圧を合併している糖尿病患者さんが多いことから、ラクナ梗塞(細い血管(穿通枝)に起こる小さい梗塞)の発症も増大します(図5)。そのため、血糖値に加えて血圧の管理も非常に重要です(図6)。 また、一過性の脳虚血発作や軽いマヒを繰り返すことで脳血管性認知症に至る場合もあり、高齢糖尿病患者さんでは認知症のリスクが通常の2−4倍になることがわかっています。 糖尿病患者さんの10−15%に見られます。間欠性跛行(歩くとすぐに足が痛くなり休むとまた歩けるようになる状態)、下肢の皮膚温が低下する、足背や足首付近の動脈の拍動が弱くなる等の症状が現れます。 糖尿病の神経障害がある場合は、痛みに鈍感で症状に気付きにくいこともあります。潰瘍や壊疽が起こっていないか常に注意し、足の状態を観察する習慣をつけることも大切です。(フットケアについてはこちらをご覧ください。) 細小血管症には、糖尿病腎症、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害があり、「三大合併症」と呼ばれています(図7)。 糖尿病腎症は、透析導入原因の43%を占め、現在第1位となっています(図8)。 腎臓の濾過機能を担う糸球体が、長期間高血糖にさらされることで障害を受け発症します。 腎症は、進展度合いにより第1期から第5期に分類され(図9)、血糖コントロールに加えて各段階や病態に合わせた治療(血圧の管理や食事療法(たんぱく質の制限等)、透析療法)などが必要となります。 初期ではアルブミン尿(初期の腎症を評価する、尿マイクロアルブミンの検査についてはこちら)がみられ、さらに進行すると蛋白尿や高血圧、浮腫などが現れます。腎症では、血清クレアチニン、クレアチニン・クリアランス(検査についてはこちら)や、その他ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質のチェック、貧血の検査などを行います。 糖尿病網膜症は、糖尿病患者さんの約10%に見られ、日本では成人の失明原因の第1位となっています。 血糖が高い状態が長く続くと、網膜の細い血管が少しずつ損傷を受け、網膜のすみずみまで酸素が行き渡らなくなります。その結果、新しい血管(新生血管)を増やして不足を補おうとしますが、新生血管はもろいために簡単に出血を起こしてしまいます(図10、図11)。 網膜症は、かなり進行するまで自覚症状がないこともあるため、定期的に眼底検査を受けて出血や白斑など病変の有無をチェックすることが必要です。(検査についてはこちらをご覧ください。) また、高血糖により水晶体の変性、白濁が起こりやすくなるため、糖尿病患者さんは白内障についても注意が必要です。 高血糖状態が続くことで末梢神経が損傷し、手足のしびれや痛み、感覚が鈍くなる、下痢や便秘を繰り返す、立ちくらみ、味覚障害、勃起障害など全身に様々な症状が現れます(図12)。 特に足先の神経は細く、症状が一番現れやすい部位です。血糖コントロールに加えて、日々足の観察を行う習慣をつけ、フットケアをしっかり行うことが大切です。(フットケアについてはこちらをご覧ください。) |